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社会福祉法人泰生会

認知症ってなにdementia

ぼけとは?

「ぼけ」とは、人の精神機能が低下したり、普段と異なった状態を総称する言葉で、必ずしも高齢者特有でもないし、全てが病的でもありません。例えば、寝ぼけや時差ぼけは子どもや健康な人もなります。

また、高齢者の「ぼけ」にも色々あって、大きく分けると次の三つがあります。

  1. 1病気でないぼけ→これは、生理的精神老化と呼ばれています。
  2. 2病気による、物忘れの強いぼけ→こちらは、(真性)認知症といいます。
  3. 3病気による、物忘れが少ないのに行動のまとまらないぼけ→仮性認知症(にせ認知症)と呼ばれます。

生理的精神老化とは?

どんなに健康であっても年をとれば脳の老化の結果、誰にも起こってきます。軽い物忘れ(下の図の①に相当)と性格の変化(年寄り臭い考え方)が生じます。生理的精神老化による物忘れはある記憶の一部のみにとどまります。例えば、昨晩の食事の一部を忘れても食事をしたことを忘れることはありません。進行して日常生活に障害を来すことはありません。

認知症とは?

認知症とは、一旦発達した知能が再び低下した状態で下の図の②に相当します。

(同じ知能が低い状態でも、胎児期や生まれて間も無い頃の病気の結果で発達しないまま低い状態を知的障害といい、図の③に相当します)

人の知能の発達と衰退

認知症と診断するには

  • 日常生活に支障をきたすほどに強い物忘れがあること
  • 慢性の経過をとり、長期固定した状態ないし不可逆性であること(※逆に、急に(数日から数ヶ月)ぼけ症状が現れた場合は認知症でない可能性が大です。)
  • 脳に何らかの破壊が証明されること

---(注意)---

  1. 1ひとり歩き、興奮、不潔行動などの一般にいわれる問題行動は認知症特有の症状ではなく、むしろ認知症でない場合が多い。
  2. 2認知症はスケール(例えば、長谷川式スケールなど)だけでは診断できません。長谷川式スケールが満点ならば多分認知症ではないといえても、それが0点でも必ずしも認知症とはいえず、0点でも認知症でない場合もしばしばあります。

「認知症」という言葉は、病名ではなく、症状の名前です

老人に熱がある時に老人性熱病とか熱病老人とはいいません。老人に腹痛がある時に老人性腹痛病とか腹痛老人とはいいません。熱が出たり、腹痛を起こす病気は何百もあり、もとの病気によって治療やお世話の仕方が異なります。認知症という症状を起こす病気は100以上あり、病気毎に症状も対応も異なります。老人に認知症があるから老人性認知症とか認知症性老人というのはおかしなことです。認知症のケアでは、最初に専門医(主に精神科医)の診断が不可欠です。

仮性認知症とは?

仮性認知症とは、高齢者の精神状態が不安定であったり、言動がまとまらなかったりしても、物忘れはないか軽度にとどまる状態をいいます。CT、MRIなどの脳の画像診断、脳波などの検査では大きな異常はみつかりません。比較的急に症状が悪化したり、症状が大きく動揺することがあります。適切な治療で治ったり、良くなったりし、従って、早期診断、早期治療が特に大切です。うつ病、せん妄が代表的なものです。

認知症を起こす要因

認知症の原因には一次要因と二次要因とがあります。

  • 一次要因とは、脳を破壊し、それだけで認知症を起こしてくるような原因です。現在の医学水準では効果的対応策はありません。
  • 二次要因とは、それだけでは脳を破壊する力はなく、従って、認知症を起こす原因にはなりませんが、すでに認知症がある人に作用すると症状を悪化・動揺させたり、修飾する要因です。現在の医学水準でも対応可能であり、お世話次第で軽減可能です。

一次要因と二次要因の関係は下の図のようになっています。

一次要因と二次要因の関係

一次要因により生じる症状を認知症の基本症状といい、物忘れと性格変化が中心です。二次要因により生じる症状を認知症の辺縁症状といい様々なものがあります。一次要因による基本症状が同じ大きさ(図の黄色の部分)でも二次要因による辺縁症状(図の緑色部分)の大小で全体の症状の大きさが変化します。つまり、二次要因(辺縁症状)を小さくすることで全体の症状が軽減します。従って、認知症の治療や介護では、二次要因への働きかけが重要です。

一次要因の主なものには以下のようなものが挙げられます

1.脳萎縮性要因

アルツハイマー病、アルツハイマー型老年認知症、ピック病、小脳変性症、その他

2.血管性要因

脳梗塞、脳出血→多発梗塞性認知症、慢性硬膜下出血、クモ膜下出血、その他

3.脳脊髄液循環障害要因

正常圧水頭症

4.その他の要因

代謝性疾患や内臓疾患の結果生ずる認知症、甲状腺機能低下症、肝脳疾患、頭部外傷、その他

二次要因には以下のようなものが挙げられます

1.身体的要因

例えば、高血圧、心不全などの循環器病や肺機能低下、貧血などがあると脳への酸素や栄養移送が不足し、脳機能が低下します。また、栄養障害や脱水、その他あらゆる内臓の機能低下は脳機能を低下させます。高齢者では、心身相関が大きく、身体機能が低下すると精神機能が低下し、精神機能が低下すると身体機能がさらに低下し、悪循環を形成します。

2.心理的要因

認知症の方を叱責したり、行動を制止・抑制したり、プライドを傷つけるような扱いをしたり、精神的・心理的ストレスを与えると認知症症状は増悪します。

3.環境的要因

引っ越し、病院・施設への入院・入所、居室の変更、介護者の変更など、環境が急変すると認知症が悪化します。特に、脳血管性認知症ではその影響が大きいようです。

4.廃用性要因

俗に頭を使わないとボケるといいますが、頭を使わないだけでは認知症にはなりません。しかし、認知症になった場合、無為に過ごすと認知症状が強まります。レクリエーションやリハビリテーションなどで脳を刺激することは大切です。

認知症の治療

ここでは、認知症に対する狭義の医療について説明します。

1.本論に入る前に

治療の前提として診断を正確に行う。特に仮性認知症との鑑別をする。(上記の仮性認知症とはを参照)
認知症の一次要因の診断を行う。認知症を起こす病気によって治療法は異なります。一次要因と二次要因の関与についての診断を行う。

2.認知症の根治療法(一次要因への治療)

根治治療とは、病気の本態そのものを叩きつぶす治療です。例えば、インフルエンザなら原因ビールスそのものを殺す薬剤です。(これに対し、発熱時の解熱剤使用は対症療法といいます。)

萎縮性要因(アルツハイマー型認知症など)への根治治療

萎縮性要因の認知症への有効な治療手段は現在のところではありません。アルツハイマー型認知症の本態解明の研究は進んでおり、将来は根治薬の開発が期待できます。アルツハイマー型認知症では、脳内のアセチールコリンという化学物質が減少します。このアセチールコリンを補充する薬が期待されますが、まだ未開発です。最近、脳内アセチールコリンが壊れるのを遅くする薬品(化学名:ドネペジル、商品名:アリセプト)が日本の製薬会社(エーザイ)により開発され、日本国内でも1999年12月から一般の医療機関で使えるようになりました。この薬は脳内アセチールコリンを増やす効果はなく、従って、認知症を良くする薬ではなく、認知症の進行を遅らせる薬です。ですから、この薬は認知症が高度になってから使っても意味はなく、アルツハイマー型認知症の初期から中等度の時期が対象になり、症状の進行を遅らせることで要介護の期間を短縮させることができると期待されます。

脳血管性要因への根治療法

多発梗塞性認知症に極めて有効と評価できる薬物はありません。幾分は効果のあると思われる薬はあります。最近、これらの薬の幾つかは余り効果がないと使用が中止されました。使用中の薬も長期漫然と使うのでなく、3ヶ月間隔で評価し、無効なら再検討が必要です。慢性硬膜下出血では、脳外科手術で完治可能です。

脳脊髄液循環障害要因への根治療法

脳外科手術が極めて有効です。

その他の要因への根治療法

原因の病気毎に治療法も効果も異なります。病気によっては、比較的簡単な治療で全快するものも、致死的なものもあります。

3.認知症の対症療法

対症療法とは、認知症の随伴症状を一時的に軽減させるような治療法です。例えば、不眠、不穏、興奮、徘徊、幻覚、妄想などの精神不安定への治療です。随伴症状は主に二次要因が原因になり、それへの治療ということになります。医療面では、主に身体的要因への治療が中心になります。いわゆる問題行動への対処法はお世話のこつを参照してください。

4.認知症高齢者に向精神病薬(いわゆる精神安定剤)を使う功罪

ひとり歩き、多動、興奮、弄便、不潔行為等々は広く問題行動と呼ばれます。しかし、私たちは、これらの行動も全て意味のある目的を持った健康的行動と考えています。健康で目的のある行動ならば、それは治療して治すものとは考えられません。つまり、私たちのセンターでは、いわゆる問題行動に対し、精神安定剤は使うべきでないと考えます。いわゆる問題行動は、良い環境とケアの方法が正しければ自然に消滅してしまいます。問題行動と考えずに日常生活障害と考えてケアすることが大切です。具体的にはお世話のコツ、日常生活障害への具体的対処法をご覧ください。

いわゆる精神安定剤が有効な場合私は、基本的には認知症では精神安定剤は不要と考えますが、以下ではその使用が有効なことも多く、この場合は専門医にご相談ください。

  • 幻覚や妄想がある場合
  • 抑うつ状態が強い場合
  • 不安や焦燥(いらいら)感が著しい場合
  • 夜間せん妄で興奮が強く不眠が続く場合
  • その他、その行動のため自他に身体的危険が及ぶおそれのある場合

この様な場合でも、その使用は慎重に、少量から使用することが大切です。

5.認知症高齢者へのリハビリテーションやレクリエーション活動

二次要因の廃用性要因にリハビリテーション等が有効です。しかし、有効といっても認知症の基本症状(物忘れ)を改善させるものではありません。従って、私たちは、これらに療法という言葉を使わずにアクティビティ(活動)と呼んでいます。療法というと治るという幻想を与えかねないからです。私たちのアクティビティの目標は、楽しく、生き生きとした時間が送れ、それによって精神的平穏を保つことです。従って、訓練して教えるのでなく、できることを楽しみ、できなくてもしからず、できなければさせないが原則です。具体的には、私たちの考案した総合おもいで活動を行っています。