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社会福祉法人泰生会

お世話のコツcare

基本原則

認知症の診断を正確に行う。

一見すると認知症に似ていて認知症ではない状態がたくさんあります。このような状態を仮性認知症(認知症って?→仮性認知症参照)といいます。本当の認知症は治りませんが仮性認知症は簡単に治ることがあります。⇒早期診断・早期治療が大切です。

認知症を起こしている病気を知って、病気の特徴にあわせたお世話をする

同じ認知症でもアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症では、その心理・行動特性は正反対です。それぞれの病気の特徴を理解してお世話することが大切です。非常に簡単にいえば・・・・・・

  • アルツハイマー型認知症では、大勢でわいわいがやがや大騒ぎをしながらみんなで楽しく、できるだけそばに近づいてスキンシップを大切にお世話するとうまくいきます。→アルツハイマー型認知症の心理特性
  • 脳血管性認知症は、静かな環境で、1対1の人間関係(ペア)でゆっくりその方のペースに合わせて、物理的にも心理的にもやや距離をおいてべたべた近づき過ぎないお世話をするとうまくいきます。→脳血管性認知症の心理特性

認知症高齢者の行動はすべて目的・意味・願いがあり、それを見つけだす努力をする

ひとり歩き、多動、弄便、不潔行為、収集癖などは、一般に目的も意味もない病的な問題行動ととらえられ、制止・禁止されがちですが、これらの行動も目的や意味・願いがあるのです。その目的や意味に合わせた行動がうまくできない日常生活障害と考えると、お世話の方法が見えてきます。例えば・・・

◎ひとり歩きにも、

  • 排尿したいのに便所が見つからず探して歩いている
  • 自宅に帰ろうと思うが出口や方向がわからず歩いている
  • 遊びに出かけた子どもが帰ってこないので探している
  • ご飯を炊きたいがお米が見つからないので探している
  • お風呂を沸かしたいが薪がないので探している
  • 行商をするためにシーツに荷物を包んで背負って歩いている
  • 会社に出勤しようと歩いている

などなどの目的や思いがあるのです。この思いを否定、拒否されると興奮、不穏となります。

◎弄便・不潔行為には、

  • 便で汚れたおむつが気持ち悪いからはずして気持ちよくなりたい
  • 非常に健康な目的でおむつが汚れてもじっと何もしないほうが病的で問題
  • 気持ちよくなりたい健康行動を上下つなぎ特殊寝間着でさせないのは、介護の放棄、人権侵害と考えます。
  • 大便が手や布団についてしまったのできれいに片付けたい
  • 水洗便所で排便したが水の流し方が分からないので手で始末しようとした

認知症高齢者の行動を日常生活動作障害と考え、障害の部分に支援する

認知症高齢者の行動は、意味や目的はあってもその目的に添った行動や動作が出来ないか、その手順(プログラム)を間違える

日常生活障害者と考えるとお世話の方法が見えてきます。例えば、・・・
失禁をトイレで排尿するのに必要な日常行動、動作がうまくできないと考えます。
健康人の排尿手順は・・・

  1. 1尿意を感じる
  2. 2状況判断をする
  3. 3便所の位置を考えて便所を探す
  4. 4電気や換気扇のスイッチを操作する
  5. 5ドアを開け、中に入る
  6. 6ドアのロックを掛ける
  7. 7衣類を下ろす(ベルト、ボタン、ファスナーなどを扱う)
  1. 8便器に対し正しい位置、姿勢をとる
  2. 9排尿抑制をとり、排尿開始、姿勢保持
  3. 10排尿終了
  4. 11事後の処理(ペーパーを使う、衣服を整える、水洗の水を流す、手を洗う等)
  5. 12ドアのロックをあけ、外に出る
  6. 13電気を消す

と、これだけの事が順番を間違えずに、全て出来て排尿行動が終了するわけです。認知症では、このどこかができなくなったり、順番を間違えてしまい結果的に失禁となります。そこでできない部分を人手や器具、建物の工夫などで補うと失禁がなくなります。具体的方法はこちら後述の(個々の日常生活障害への具体的対処法)を参照してください。

人権を侵さないお世話をする(抑制や拘束、禁止をしない)

認知症になると物忘れはしても、心や気持ちはきわめて健康です。また、認知症高齢者の行動にはすべて目的や意味があります。従って、認知症高齢者の行動を禁止・抑制したり、部屋に閉じこめて拘束することは人権侵害であり、法的不法行為になり、決して許されることではありません。徘徊や単なる多動に対し精神安定剤を使い身体をぐったりさせて寝かしつけてしまうのも一種の抑制(化学的抑制)であり行うべきでないと考えます。認知症高齢者の行動は事故、怪我を起こさない配慮をしたうえで自由に動いていただくのが原則です。また、弄便も健康行為であり、これに対し上下つなぎ特殊寝間着を使うことは手足を紐で縛るのと同じ介護の放棄であり、人権侵害、不法行為であり、少なくとも施設・病院では絶対に行うべき方法ではありません。

個々の日常生活障害への具体的対処法

1.ひとり歩き、多動、落ち着きのなさなどへの対応

  • アルツハイマー型老年認知症では、強い物忘れのため自己の存在を揺るがせるような強い不安があります。
  • 脳血管性認知症では、状況の変化に対する不安があります。
  • いずれにせよ認知症では、強い不安がありますが、不安を軽減するもっとも簡単な方法は、身体を自由に動かすことです。
  • 従って、認知症高齢者の徘徊や多動などを制限、抑制、拘束すると不安がより強まり、精神不安定になります。
  • ひとり歩きは、自己や危険のない限り、一定の範囲で自由にさせてあげて下さい。
  • 玄関やドア等は閉鎖、施錠するのでなく、出たら出たことが分かるような工夫(例えばドアが開いたらブザーが鳴る)をして、出た時にはしばらく一緒に歩いてみて下さい。
  • 認知症高齢者のひとり歩きにも色々な目的や思いがあります。徘徊は止めるのではなく、よく観察し、その裏に隠れている目的や思いを見つけてあげてください。
  • 物を入れたり出したりを繰り返すような一見すると目的や意味の分からない行動(仮性作業といいます)も危険がなければ自由にさせてあげてください。

無意味だからと何もかも取り上げてしまうと、不安になります。お年寄りはとにかく仕事好きなのです。子どもがいたずら遊びをするように認知症高齢者も何かお遊びが必要なのです。

2.不眠(昼夜逆転)への対応

  • 認知症では、昼間はうとうと横になっていて、夜になると目を覚ます昼夜逆転タイプの不眠がしばしばみられます。
  • これに対する一番の基本の対処は、昼間は目を覚まし、夜になったら寝るという規則正しい生活をすることです。
  • そのためには、昼間は自然光の差し込む明るい環境で過ごしましょう。
  • 最近、高齢者の不眠に光療法(非常に強い光を一定時間照射する)の有効性が報告されていますが、日中、外に出て明るい光を浴びることも有効です。
  • 昼間、身体を動かすことも大切で、散歩等も積極的に行いましょう。
  • 在宅ケアの場合は、デイサービスやデイケアを利用することで、生活が規則正しくなり、そこでの各種アクティビティーにより睡眠も改善します。
  • 寝室はエアコン等で適温に保ち、清潔で快適な寝具等を用意して下さい。
  • 真暗闇は不安を増強し不眠となりますから、少し明かり(常夜灯)をつけておきましょう。そのためにはダイヤル式調光スイッチが便利です。
  • 一人で寝るのは不安で眠れない場合もあり、添い寝や相部屋がよいこともあります。
  • 空腹だと眠れなくなります。夜間の温かい飲み物や消化のよい少量の食べ物が睡眠薬以上に効果のある場合もあります。
  • 高齢者では、精神安定剤や睡眠剤が日中の傾眠を強め、夜間の不眠を増強させたり、転倒を起こしやすくするなどの副作用を起こすこともあり、専門医と相談しながら慎重に使いましょう。

3.過食、異物食への対応

  • ひとり歩きするタイプの認知症では、運動量も多く、本当に空腹なのです。
  • 80歳前後のお年寄りでは、所要栄養量は1日1500キロカロリー前後が標準ですが、認知症ではこれではおなかが空き、異物食が生じやすくなります。
  • 当施設では、1800~2000キロカロリーの食事を提供していますが、このくらい食べれば異物食はほとんど見られなくなります。
  • 頻回に食べ物を要求する時には拒否するのでなく、飴玉やクッキーなどを少しずつその都度あげてください。
  • 病院、施設では、メラミン食器が多用されますが、認知症ではその感触や重量感が陶磁器の食器と異なるため、食への満足感が得られなくなります。
  • ご飯も、どんぶり一杯では食べた実感が残らず、すぐに再び食事を要求することがあります。同じ量のご飯でも、小さな器でおかわりをしてあげると満足します。
  • 美しい食器、彩りのきれいな旬のお料理、テーブルクロスやお花の飾りなどが食生活への満足感を強め、食行動の問題が減少します。
  • 一人で食べるよりも会食形式が食への満足感を強めます。施設等では食堂で、家では家族と団欒をしながらの食事が望まれます。

4.排尿便の失敗への対応

(1)便所の場所が分からず探しているうちに間に合わなくなって失敗する
  • 認知症高齢者の排尿便の失敗でもっとも多いタイプです。
  • 安易に失禁と考えずに便所を探しやすくする工夫を考えてみて下さい。

例えば、以下のような工夫があります。

  • 便所の表示の仕方を工夫する
  • ドアの目の高さに大きく文字で便所の存在を表示する

この場合

  • 「トイレ」よりも「便所」とか「お手洗い」と書く方が分かりやすい
  • 「ご不浄」「厠」などの昔の表現の方が分かりやすいこともある
  • 周囲とコントラストの大きい色を使って表示する

例えば、黄色の背景に黒色の文字

  • 文字の表示で分からなければ便器をイラスト化して描いてみる
  • ドア全体を目立つ色にしてみる
  • 入り口の床部分の色を目立つ色にしてみる
  • 部屋から便所までの通路に矢印の表示をしてみる
  • 使っていない時にはドアを開け放しておく(認知症ではドアの向こうが便所であることも忘れ、便器が見えると便所を見つけることができます)
  • 夜間は電気をつけたままにして、ドアを開けておく

新たに施設等を作る場合には

  • 便所は一般に、建物の隅や見えにくい所に作りますが、これではますます見つけにくくなります
  • 逆に建物の中心で一番目立つ場所に作れば便所が見つけやすくなり、認知症があっても排尿の失敗が減ります
  • 便所は廊下の突き当たりに作ると見つけやすくなります(逆に、廊下の横方向にある便所は見つけにくいようです)
  • 部屋の中のトイレもベッドからドアが見えると見つけやすくなります
  • 便所の中から音楽や何か音がしているとそれがきっかけで中に入ります
(2)水洗の水が流せず手でもてあそんでしまう
  • 高齢者は水洗トイレに慣れていず、水が流せないけれど汚物を片づけようとして手で触って不潔行為、弄便となることがあります
  • このような場合には、水を流すレバー、押しボタンを目立たせる工夫をする

例えば

  • レバー、ボタンに目立つ色を塗る
  • 背景の色を変えて目立たせる
  • 矢印でレバー操作の方向を表示する
  • 可能ならレバーや押しボタンの位置を見えやすい位置に変える
  • センサーにより、使用後は自動的に水の流れる装置もあります
(3)衣服の着脱がスムーズにできず着衣を汚したり、失敗したりする
  • ベルトがうまく緩められなければゴム紐に替える
  • ボタンやファスナーがうまく扱えない時には、ワンタッチ接着テープをつける
  • ズボンと下着が同じ方向に下ろせたり、広げられるように組み合わせる
  • 一つの動作で衣服が下ろせるように工夫する